Miseria ~幸せな悲劇~

約二週間前。それは激しく雨の降る夜の出来事だった。


キキキキキキキキキッ……!!


悲鳴のようなブレーキ音が夜の闇を引き裂いた。


「きゃああああ……!!!!」


信号を無視した猛スピードの車が横断中の風花とその友人を襲った。


逃げることはおろか、悲鳴をあげる余地もなかった。鋼鉄の車体が激しく少女達の身体と衝突し、車は炎をあげながら二人をひきずりまわすと、ようやく横断歩道の近くの縁石に乗り上げて停止した。


目を逸らしたくなるような光景が、一瞬にして現場を地獄に変えた。


「……だ、誰か、救急車、救急車!!」


車にはついさきほどまで人間だった者の血と、バラバラの肉の塊がこびりついている。


飛び散ったパーツの一つ一つから辛うじてそれがかつて少女であったことが分かった。


「お、おい! こっちにも人がいるぞ…!」


「…………」


凄惨な交通事故の中で、風花は運よく車の隙間に入り込み生き延びていた。


しかし、頭はぱっくりと割れるような深い裂傷を負い、事故の衝撃で内臓はひどく損傷していた。


輸血をぶちまけたような血が風花の小さな身体から絶えず流れでる。


風花はすぐさま車の隙間から現場に居合わせた大人達の手によって運び出された。


「おい君、しっかりしろ!おい!!」


「…………」


風花はこの時点で彼らの呼び掛けに一切応じなかった。


それから10分近くが過ぎて、ようやく駆けつけた救急隊によって風花は病院へ搬送された。


特に重症だったのは事故の衝突によって損傷した脳だった。
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