Miseria ~幸せな悲劇~
「……ハァ、ハァ、ハァ」
風花の事故の知らせを聞いた美花は急いで病院にむかった。
「ふ、風花……!」
美花が病院についた頃には、すでに風花は手術室の中だった。
「美花……!」
美花達の両親は手術室前の廊下で祈るようにうなだれていた。両親の様子から、美花の背中には体を硬直させるような悪寒が走った。
「ねぇ、父さん、風花が……風花が事故にあったって……」
「……ああ」
「なにかの間違いだよな…!なぁ、父さんってば…!」
美花は不安と恐怖で顔を歪ませながら父に迫った。父はそんな美花を横目で見ながらゆっくりと語った。
「試合の帰りに、他校の友達と横断歩道を渡ろうとした時、風花は信号を無視した車にひかれて……」
美花の瞼には、この時の父の表情が焼きついている。
「その子は即死だったが、風花も今とても危険な状態だ……お前も俺も、か、覚悟を決めた方がいい……」
普段はだらしないはずの父の真剣な涙を、美花は生まれてはじめて目にした。
そんな弱った顔しないでよ。
父さんがそんなんなら、私は、
私はどうしたらいいか分かんぇよ……!!
美花の頭には混沌とした感情が渦巻いていた。
「嘘だ……そんなの…………!」
手術室のランプは真っ赤に薄暗い廊下を照らしている。人の命に対して、これほど危機迫る時を、美花は経験したことがなかった。
死……?
最悪の予感が美花の心を支配した。深い絶望と悲しみから沸き立つ激情が美花を押し潰す。