Miseria ~幸せな悲劇~

「嫌だ!!風花!!風花!!!風花!!!!」


今にも美花は手術室のドアを蹴破ろうとした。


「やめろ!美花!」


そんな美花を父と母は押さえつけた。


「離せ!!くそ……!!風花が……風花が!!」


美花は叫けび続けた。


届くはずのない声をしぼりだして……


その後、手術を終えた風花は奇跡的に命を留めたが、彼女の脳はそのほとんどの機能を失っていた。

風花はもう二度と風花として意識が戻ることはない。

脳の持つ統合機能は不可逆的に失われ、もはや彼女は人としての個体の統一性を失っていた。

それは限りなく死に近い。

例えるなら人工呼吸機によって空気を送り続ける、穴のあいた風船のようだ。やがて風船は萎みきって、地に落ちるのを待つだけなのだ。
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