Miseria ~幸せな悲劇~
風花を前に、美花はどれくらい泣き続けただろうか。日は沈みはじめ、病室は窓からさすわずかな光で薄暗く照らされていた。
「あら、美花さん、今日はもう来てくれてたのね…」
いつもの看護師が風花の病室に入ってきた。初めて涙をふく美花の泣き顔を目にして気まずさを覚えたのか、看護師は病室のドアの前で佇んだ。
「………看護師さん、悪いけど今日は二人きりにしてくれないかな」
美花が涙声で言った。
「風花ももう……長くはないんだろ…? だったらできるだけ二人でいたいんだ……頼むよ……」
看護師は美花の言葉にうつむいた。看護師として自分まで泣いてはいけないと思ったのか、感情を圧し殺すように唇を噛むと、悲しい顔に微笑みを浮かべて言った。
「……分かったわ、だけど点滴だけ交換させてもらえるかしら? すぐすむから…」
「ああ、いいよ……」
看護師は美花の返事を聞いて手際よく風花のベッドの近くで作業を始めた。
「そうだ、看護師さん……」
「なにかしら?」
美花は涙をふいて顔をあげた。もはやそれは慰め程度の提案だったかもしれない。
「……ちょっと用意してほしい物があるんだけど…いいかな…?」
美花は看護師に例のおまじないの儀式に使う道具を要求した。最後の望みとして、美花は幸福の神を呼び出す儀式を行うのだった。