Miseria ~幸せな悲劇~
夜の7時過ぎ。サッカー部の練習を終えた大野は、ひどく疲れた様子で家に帰宅した。
「あー、疲れた……」
大野は自分の部屋に入ると手荷物をベッドの上に投げつけて近くの椅子に腰をかけた。
「はぁ、まだ体力がイマイチ続かないな、サボりのつけがきてやがるか……」
大野はそう呟きながらテーピングを外した。とりあえず、怪しまれないように見た目だけは病み上がりを演じようと巻きつけてきたものだ。
テーピングを外した右足には先月まで生々しく刻まれていた傷の跡すら残っていなかった。右足はすべて元通りに以前の状態に戻っていた。
「本当にあの怪我が嘘みたいだな。これが神様の力か……」
大野は右足を触りながら不敵に微笑んだ。いまだに彼女自身も信じられなかった。あのおまじないの効力。そして、大野が確かに目にした、幸福の神様の存在を。
すると、
ペタペタペタ…ペタペタ…………………
「ん? なんだ…?」
下の階から誰かが走り回る音が聞こえてくる。
「変だな、まだ親も帰って来てないはずなのに……」
ペタペタ…ペタペタペタペタペタペタ………………………
足音はどんどん増えていくようだった。それもおそらく、体重のある大人の足音ではない。三歳か、五歳程度の子供。たくさんの子供の足音だ。
「なんなんだよ一体…」
大野は不思議そうに肩をすくめた。まさか迷子の子供が大勢で迷い混んだというわけではないだろうが。大野は恐る恐る下の階に様子を見にいくことにした。