Miseria ~幸せな悲劇~

「あっ、メイさん!」


しばらく人形について歩くと、凪瀬校のジャージを着た一人の生徒がメイに話しかけてきた。


「えっと、あなたはたしか隣のクラスの……」


「篠原です!篠原麻衣(シノハラマイ)!美花さんと同じサッカー部です!」


麻衣は先生にあてられた小学生のように答えた。詩依ほどではないが背も低く、麻衣は犬やいたちのような顔つきをしている。


「ああ、そうそう、篠原さんね……」


よくメイはまともに話したことがない生徒に話しかけられる。しかもなぜか敬語でだ。


「あの、メイさん。放課後の大野先輩のこと、私から謝ります。先輩はその、調子に乗ってたというか……その……メイさん、気を悪くしないでくださいね…」


麻衣は大野について謝罪した。麻衣はかなりそのことが気がかりだったようである。


「いいよ。別に気にしてないし。それに篠原さんが謝るようなことじゃないから」


メイは麻衣に気を遣わせたことを逆に心苦しく思った。


「あっ、そうだ……! 大野先輩と言えば、大変ですよ! メイさん! 聞きました!?」


麻衣はさりげなくメイの腕を掴んだ。麻衣は校内でも有数の熱狂的なメイのファンの一人だった。


「いや、あの、私も今忙しくてさ……」


メイは早々に話を切り上げようとした。例の歩く人形のことが気になっていたのだ。


しかし、メイが人形のいた方に目を向けると、


「……あれ?」


人形は目を離した隙にどこかへ消えてしまっていた。
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