Miseria ~幸せな悲劇~

黒煙が空高く漂っていた。煙臭い不快な悪臭と鮮明な赤い炎、そして、息を吸う度に喉を焼くような熱が五感を襲う。


激しい炎が大野の家を包んでいる。鉄をも溶かしてしまいそうなほど真っ赤で恐ろしい炎だ。


消防士が大量の水を炎に浴びせて少しでもその進行を鈍らせようと試みている。しかし、懸命な彼らの活動もむなしく、炎はますます勢いを増していった。


真っ暗な夜の景色を切り裂く赤色の炎は、取り巻きの野次馬達の目に強烈な印象を与えた。その中には火事を知らせるメールを見て駆けつけてきたメイや麻衣、サッカー部員の姿があった。


「メイ!!!」


美花が制服のままメイのもとに駆けてきた。


「先輩は!? 大野先輩は無事なのか!?」


美花は不安げに顔を歪めながら叫んだ。


「分からない…!けど、多分まだ中に…!」


メイがそう言ったのと同時に、バキバキバキバキ!!!と、激しい音が家の方から聞こえてきた。


「きゃあああ!!!」


野次馬達は一斉に声を上げた。どうやら炎の勢いに負けて二階の家屋がバラバラに崩れたようだ。


「離れて!! 下がって!!!!」


消防士は火事に集まった野次馬達を制止した。彼らは消防士の気迫に一斉に後ずさりをしたが、それによって転倒した者がいたらしく、何かを訴えて叫ぶ声が上がった。
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