Miseria ~幸せな悲劇~
「あっ! 美花さんっ! あれ!!!!」
麻衣は美花の肩を叩いて燃え上がる家の方を指差した。そこには炎の中から大野を連れ出す消防士がいた。
「せ、先輩……!?」
消防士に抱えられた大野は死んだようにピクリとも動かないでいた。あれほど普段は気性の荒い大野だが、今の彼女の姿はまるで死を目前とした老犬のようだった。
美花はそんな大野の姿から妹、風花の悲劇を連想してしまったのだろう。
「…………い、嫌だ、大野先輩!!!」
青ざめた表情で美花は悲鳴を上げる野次馬達の声をしのぐほどの声量で叫んだ。
「ちょっ、美花!!」
野次馬の壁を作る屈強な消防士達の隙間を越えて、美花は大野の元に走る。
メイは美花の後を追おうとしたが、直後に炎は油を得たように勢いを増した。
「熱っ…………!」
炎の勢いに圧倒され恐怖を感じた野次馬達が一斉に動いた。メイはその勢いで群衆の中から押し出された。
「大野先輩!!しっかりしてよ、ねぇ!!」
「先輩!!」
美花と麻衣は救急車に乗せられる大野にむかって懸命に呼び掛けていた。そんな二人のもとに大勢の凪瀬校の生徒達が集まっていく。その多くはどうやらサッカー部の生徒のようだ。