Miseria ~幸せな悲劇~
その瞬間、炎はついに家全体を飲み込んだ。熱い灰が辺りに飛び散る。思わず消火にあたっていた消防士も手を止めて口を開き、炎を前に屈服する。誰もが炎の作り出す悪夢のような光景をただただ眺めることしかできなかった。
そんな中………
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
野次馬達から少し離れたところで、誰かが金属を擦ったような細い声で叫んだ。同じく野次馬達の中から外れていたメイはその声の主を確かに視認した。
「し、詩依……?」
そこにいたのは、メイの親友の一人である詩依であった。詩依はひどく怯えた様子でガチガチと震えている。それは普段の強気な詩依からは絶対に考えられない異様な態度であった。
「ねぇ、詩依……?」
メイが詩依の名前を呼んで近づくと、
「ヒッ……………!」
詩依は銃声を聞いた小動物のような声を上げた。そして、気まずそうにメイから視線をそらすと、首を横に振りながら逃げていってしまった。
「ちょっ、まってよ、詩依………!」
メイは詩依に呼びかけた。しかし、彼女は振り返ることもなく炎の光の当たらない暗闇の中へと消えてしまった。
「あいつ、どうしたんだろう?」
メイが不振そうに首をかしげると、炎の中から、何か黒い塊がメイの足元に降ってきた。