Miseria ~幸せな悲劇~
「詩依……」
どこか鬱々しい表情で詩依が教室の中に入ってきた。
「………」
やはり昨日の火事を境に詩依の様子がおかしい。詩依が上げた叫び声がメイの頭にリピートされる。あの時、詩依に一体何があったのだろうか。
「……詩依、どうかしたの?」
メイは思いきって詩依に声をかけた。
「別に、何でもないけど……」
詩依は一切メイに目を合わせずに言った。
「ねぇ、詩依は火事のこと聞いた? 大野先輩の」
メイの事情を知らない祐希は詩依に大胆な質問をした。詩依は祐希の言葉に一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに表情を作って質問に答えた。
「いいえ、何も聞いてないわ……」
それがね、昨日………と、祐希が火事について説明しようとしたが、詩依はそれを無視して自分の席についてしまった。
「どうしたんだろう? 詩依、なんか元気ないね……」
詩依の素っ気ない態度に祐希は不思議そうに言った。
「うん……」
メイは昨日たしかに詩依を見たはずだ。見間違いのはずはない。詩依は嘘をついた。なぜ、火事の現場にいたことを隠す必要があるのだろうか。