君だから。
「あのさ、七瀬さん」
そう九条くんに呼ばれて私は彼の方を向いた。
わ、やっぱり綺麗な顔…
ていうか九条くん近いな…
私がそんなことを考えていると────
「下の名前教えて?」
九条くんは私の顔を覗き込みながらそう聞いてきた。
びっくりして思わず我に返る。
「そういえば名乗ってなかったね。葵って言うの」
「葵ちゃんかぁ。良い名前だね。似合ってる」
似合ってるなんて初めて言われたなぁ…。
照れくささと嬉しさが入り混じる。
「あ、ありがとう…。そんなこと初めて言われた」
「ほんと、七瀬さんの雰囲気にぴったり」
そんなに言われると照れくさくて仕方がない。
たぶん私の顔は今赤くなっているだろう。
でも、そう言ってくれるのは嬉しい。
「九条くんは褒めるのが上手だなぁ」
「そんなことないよ。ただ思ったことを言っただけだよ」
あ、しまった。声に出てた。
心の中で呟いたはずが思わず声に出してしまって、私はまた恥ずかしくなる。