極悪プリンスの恋愛事情
凛くんが帰っちゃう前に渡したいのに、タイミング難しそうだなぁ。
ファンの子たちが持ってるチョコも全部すごそうだし、なんか自信なくす………。
手元に準備していたクッキーを見てやるせない気持ちになる。
さて、どーしたもんか。
廊下をぼんやりと眺めていたら人混みの中心か声がした。
「迷惑。誰からも受け取るつもりないから」
今のは間違いなく凛くんの声だ。
誰からも受け取らないって─────私のチョコも?
あんなに騒がしかった廊下が一瞬で凍りつき、凛くんが人混みから抜け出した。
教室を通り過ぎてそのまま廊下の奥へと消えていく。
いつもの私ならすぐに後を追いかけてチョコを押し付けていたかもしれない。
一瞬それでもいいかと思ったけど、動かないことを選んだ。
大丈夫。今日はまだ始まったばかりだもん。
渡す時間くらい……あるはずだよね。