お見合い結婚狂騒曲
あの時、一瞬だが見せた彼の表情と氷点下の瞳……そして、あの言葉がグルグル頭の中に渦巻く。

君はない……君はない……。
ーー誰にも必要とされない……愛されない……両親にさえ……。

「えーい、ヤメヤメ!」

でも、私には祖父母がいる。
負の感情を振り払うように、ザバンと勢い良く湯から上がり、湯船の栓を抜く。

ザーッと流れる水音を聞きながら、嫌な事もこんな風に流せてしまえたら楽なんだろうな、と小さく息を吐き、浴室を出る。

お風呂から上がり、景気付けに腰に手を当て牛乳を飲んでいると、狙ったように電話の呼び出し音が鳴り始める。

出なくても分かる。この着信音は公香だ。きっと見合いの件だろう。

〈真斗から聞いたわよ〉

案の定だった。
真斗さんのお喋り!

〈親指を下に立てたんだって〉

そう、立てたのは親指。それも地面に向けて……。

〈それより驚いたのがお相手だわ。葛城さんだったなんて〉

そりゃあ驚くだろう、当事者だってビックリだったのだから。

〈明日詳しく教えなさいよ〉

イヤイヤ、絶対に真斗さんから詳しく聞いているだろう。それ以上、何を話せばいいというのだ?
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