お見合い結婚狂騒曲
八時三分前にエレベーターで二階に降りる。二階には、私が詰める事務室以外に、来客者用の応接室、大会議室一つと小会議室三つがある。

事務室のエアコンをオンにし、パソコンの電源を入れ、立ち上がるまで、軽く室内の拭き掃除をする。

いつもの毎日だ。

ここには事務職員三人と、食品栄養学講師を兼任する主任が詰めている。
その中で、未食ビルに住んでいるのは、私と主任の桂木さんだけだ。

字こそ違うが葛城圭介と同じ苗字で、とてもややこしい。葛城圭介をフルネームで呼ぶのは、こうした理由もある。

後の二人、二十四歳の南ちゃんと三十二歳の大久保さんは自宅通い。ちなみに、二人とも既婚者だ。

桂木主任は八階のファミリー階に住んでいるが、最近、溺愛する娘さんが「ワンちゃんが欲しい」と言い出したそうだ。ここは食品を扱うビルなのでペットはNG。どうしたものか、と頭を悩ませている。

葛城圭介とお見合いさえしなければ、可もなく不可なく至って平和な職場だったのに……そうだ、今日さえ乗り切れたら、次の授業は一週間後。そうこうしている間に忘れてしまうかも……。

「いつも早いね、赤尾真央さん」

『たら』『れば』をグルグルさせながら、パソコンのキーボードを叩いていると、誰かに名前を呼ばれる。
< 24 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop