お見合い結婚狂騒曲
私はいつもこうだ。没頭するとドップリその世界に入り込み、周りが見えなくなる。

「おはようございます。赤尾真央さん」

再度声が聞こえ、トリップしていた意識が、リアルな世界へとゆるゆる戻ってくる。

焦点の合った目が、デスクを挟んだ向こう側に立つ人を見る。

「ウワアァァ!」

そこには、今朝テレビで会った人がテレビのまま立っていた。

「赤尾真央さん、煩い!」
「ーーかっ葛城圭介先生!」

今、一番会いたくない人物だ。

「なっ、何、どうしてここに」

アワアワする私をフンと鼻で笑う葛城圭介。彼は私の質問に答えることなく、「コーヒーの香りがする」と鼻をクンクンさせる。

これも日課の一つだ。パソコンの電源を入れると共に、私はコーヒーメーカーのスイッチも押す。

「ーーお淹れしましょうか……」

まだ心臓の鼓動は速いが、冷静さを取り戻し訊ねると、「よろしく」と言葉が返る。

来客用のカップにコーヒーを注ぎ、事務室の一角にあるローテーブルに置く。

「ありがとう。ん? これは」
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