お見合い結婚狂騒曲
運転手が後部席のドアを開けると「久し振り」と声が聞こえた。
当然、葛城圭介だ。

「お久し振りです」と返し、車に乗り込む。

「わざわざ、ご本人がお出迎えにいらっしゃらなくても」
「わざわざではない。忘れ物を取りに来たついでだ」

ーーそんなことだろうと思ったが、そこは、「迎えに来たかったから」とか「早く会いたかったから」とか、そんな風に言うのが……と想像して、ゾゾッと悪寒が走る。

イヤ、それは無いわ。想像するだけで凍る。
両手で自分の腕を擦り、フルフルと頭を振る。

それにしても、クーッ、嫌味なほどカッコいい。ブランド物らしきスーツだが、これは絶対に既製品じゃない。それをサラリと着こなし、見せつけるように組んだ足が……長過ぎだろ。

チラチラと見ていると、前を向いたまま葛城圭介が言う。

「今日は何だか綺麗だな」

ハイ? 今、不思議な単語が飛び出したぞ。
キレイ? 何が?

「二皮ほど捲れたようだな。エステにでも行ったか」

それって、私が綺麗、ということぉぉ!
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