お見合い結婚狂騒曲
「何だ、大きな目が溢れそうだぞ。そういう顔をすると、君は子ダヌキみたいだな」

ーー今、私は貶されているのだろうか、まさか、褒められている、なんてことはないだろう。うん、きっと揶揄われているのだ。

イヤー、しかし、半端ない攻撃力だ。おそらく本人は無自覚だろう。私だから良いようなもの、何も知らない女なら、この毒牙にコロッと誑かされてしまうだろう。危ない男だ。

フーッと息を吐き、気持ちが落ち着いたところで訊ねる。

「これからどちらへ?」
「言っていなかったか」

あの朝から今日までの一週間、何の連絡もなし。今朝届いたメールは『十時、表で待て』のみ。

「全く、何も、聞いておりません!」
「ああ、そうだったか。仕事のこと以外、頭に置かない事にしているからな」

だから忘れていたというのか?
なんて自分勝手な。この件を頼んできたのは自分だろう!

ーーと、もう怒るのもバカらしく、呆れていると、「北海道に行く」の声。

空耳?

「祖父が北海道にいる」

違うみたいだ……ちょいお待ちぃ! ここは関東。この時間から北海道って、日帰りじゃあ無理でしょう!

「あの、私、明日、仕事があるのですが」
「僕も仕事だ。大丈夫だ、今日中に送り届ける」
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