お見合い結婚狂騒曲
葛城圭介も、「では」と軽く会釈をし、踵を返す。エッ? と慌てて私もお辞儀をし、後を追う。

「あの、もう帰るんですか?」
「ああ、君も明日は仕事だと言っただろう」

まさか、時間が合ったとは、この五分のこと? 嘘でしょう!
滞在五分のために飛行機をチャーターして、私にコートとブーツを用意して……何たる無駄遣い。信じられない!

雪に足を取られなから、危な気に後を付いて行くが、無性に腹が立ってきた。

私はボランティア精神で彼に付き合ったはずだ。その私が、何で彼に振り回されなくてはいけないのだ。

ピタリと立ち止まった私に気付き、葛城圭介が振り返る。

「何だどうした」
「葛城圭介さん、貴方は胸が痛まないのですか!」

ん? と不思議なモノを見るように彼が私を見る。

「結婚を前提にって、思ってもいないことを言って。お祖父様を騙して……」

そうだ、あの時チラリと浮かんだ喜びの色。あれは本物だった。お祖父さんは嬉しかったに違いない。

「私は胸が痛いです」

葛城圭介がヤレヤレというように、深く息を吐く。

「君は本当に馬鹿だ。嘘など言っていない。『見合い屋』に仮交際すると言った時点で、結婚の意思を示唆したようなものだ。違うか?」

ヘッ? と間抜けな声が出る。

「とにかく、本交際まで、後1・2回デートするんだったな。都合が着き次第、連絡する」
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