手を伸ばして、くっついて。
「予約は七時なんですけどぉ、もちろん途中参加でも全然オッケーなので!」
しつこい田所さんに困り顔の衛藤は、ちらちら隙をみて私の方を見て、え?って目を見開いた。
ありゃりゃ。全然、伝わっていない様子。
〝雪! ゆ、き!〟
って、大げさに口を開け閉めして繰り返しても、相手はきょとんとした顔で亀みたいに首を前に出したりしてる。
はあ。だめだこりゃ……。
「すみません俺、時間に遅れるから行きますね!」
田所さんにきっぱりとそう告げ、衛藤は一礼するとフロアから出て行った。
いつものようにコートも羽織らず、軽装で。
まあ彼が、風邪を引いても引かなくても、私には関係ないんだけども。一応雪国出身者として、一言伝えとくか。雪なめんなよ、って。
不満そうな田所さんとちょうど入れ違いのタイミングで私は席を立ち、フロアを出た。
小走りで衛藤を追いかけ、通路の曲がり角に差し掛かったとき。
「__わ!」
壁から伸びてきた手に、腕を掴まれた。
バランスを崩してコケそうになったんだけど、体がビヨーンってバネみたいに、壁に引き戻された。
「えっ……! え⁉︎」
もちろん壁に手などあるはずもなく。
正しくは、壁に寄り添って立っていた衛藤の手、だ。