君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている
迫りくる鈍色
◆
物見の向こうに立つ人は、全身から湯気のようなものを発しているように見えた。
「何考えてる歩! 気合がない!」
怒号のように叫びながらあたしの竹刀を払い、小手、面と次々打ち込んでくる。
気合いは普段の生活でもよく使われる言葉だけど、剣道で用語でもある。全身に気力が充満し、心もそれに一致して相手に隙を与えない状態。
ラストの地稽古で相手をしてくれた優ちゃんは、いままさにその状態だった。
あまりの圧と隙のなさに、足がなかなか前に出ることが出来ない。
「重心ぶれてる! 下がるな! 打ってこい!」
僅かに優ちゃんの竹刀が上がったのを見て、素早く胴を打ち、脇を駆け抜ける……はずだった。
けれど実際は軽くいなされ、鮮やかな応じ技で打ち込まれる。
ギリギリでそれを避けて相打ちからのつばぜり合い。肩で息をするあたしとは対照的に、優ちゃんは一切息を乱さず落ち着いていた。
物見からのぞく薄茶の瞳に炎が揺らめいて見える。冷たくて青い、静かな炎。
「余計なことを考えるな! 無心になれ! 目の前の相手を見ろ!」
「はい!」
「剣先だけ見るな! 全体だ!」
物見の向こうに立つ人は、全身から湯気のようなものを発しているように見えた。
「何考えてる歩! 気合がない!」
怒号のように叫びながらあたしの竹刀を払い、小手、面と次々打ち込んでくる。
気合いは普段の生活でもよく使われる言葉だけど、剣道で用語でもある。全身に気力が充満し、心もそれに一致して相手に隙を与えない状態。
ラストの地稽古で相手をしてくれた優ちゃんは、いままさにその状態だった。
あまりの圧と隙のなさに、足がなかなか前に出ることが出来ない。
「重心ぶれてる! 下がるな! 打ってこい!」
僅かに優ちゃんの竹刀が上がったのを見て、素早く胴を打ち、脇を駆け抜ける……はずだった。
けれど実際は軽くいなされ、鮮やかな応じ技で打ち込まれる。
ギリギリでそれを避けて相打ちからのつばぜり合い。肩で息をするあたしとは対照的に、優ちゃんは一切息を乱さず落ち着いていた。
物見からのぞく薄茶の瞳に炎が揺らめいて見える。冷たくて青い、静かな炎。
「余計なことを考えるな! 無心になれ! 目の前の相手を見ろ!」
「はい!」
「剣先だけ見るな! 全体だ!」