君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている
バカみたいだ。そんなことあるはずないのに。
だって智花は優ちゃんと、もう何年も顔を合わせてないんだから。
「そう? はー、疲れたね。早くお風呂入って寝たいな」
明るく言って、門を開けた智花は先に歩き出す。
その時長い髪がふわりと広がって、後ろにいたあたしの鼻先をかすめていった。
苦い煙草の香りが濃く残っていることに、ギクリとした。
友だちのお兄さんの車なんだから、そういうこともあるだろう。別に智花が煙草を吸ってたわけじゃない。
そう頭では思うのに、なんだか妙な胸騒ぎがして落ち着かなくなる。
知らない顔をする優ちゃん。
知らない匂いをさせた智花。
あたしが変化を望んでいなくても、周りは止まることなくどんどん変わっていってしまうのか。
砂時計の砂は、すべて落ち切るまで止まってくれはしないのか。
見上げた夜空に星は見えない。
優ちゃんはこの真っ暗な空に、何を見ていたんだろう。
頭上に広がる黒に、押しつぶされそうな気がして怖ろしかった。