君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている

バカみたいだ。そんなことあるはずないのに。

だって智花は優ちゃんと、もう何年も顔を合わせてないんだから。


「そう? はー、疲れたね。早くお風呂入って寝たいな」


明るく言って、門を開けた智花は先に歩き出す。

その時長い髪がふわりと広がって、後ろにいたあたしの鼻先をかすめていった。


苦い煙草の香りが濃く残っていることに、ギクリとした。


友だちのお兄さんの車なんだから、そういうこともあるだろう。別に智花が煙草を吸ってたわけじゃない。

そう頭では思うのに、なんだか妙な胸騒ぎがして落ち着かなくなる。


知らない顔をする優ちゃん。

知らない匂いをさせた智花。


あたしが変化を望んでいなくても、周りは止まることなくどんどん変わっていってしまうのか。

砂時計の砂は、すべて落ち切るまで止まってくれはしないのか。



見上げた夜空に星は見えない。

優ちゃんはこの真っ暗な空に、何を見ていたんだろう。


頭上に広がる黒に、押しつぶされそうな気がして怖ろしかった。





< 118 / 333 >

この作品をシェア

pagetop