君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている
文句を言おうとした。いまさら虫が良すぎるんじゃないのって。
でも振り返った先、こっちを真っすぐ見つめて来る黒い瞳が思いのほか真剣で、あたしはぶつける言葉を見失ってしまった。
あたしの手ごと手紙を押し付けて、深月が大きな背を向ける。
「先、戻る。部活はちゃんと出ろよ」
偉そうに言って来た道を戻っていく後ろ姿に、あたしはありったけの罵詈雑言を心の中で浴びせかけた。
ずるい。なんてずるい奴。
いままであたしに頼み事なんてしてきたこと、一度だってないくせに。
その上あんな顔で、あんな真剣に頼んでこられたら……。
手の中で不格好に折れ曲がった封筒を見下ろす。
「断れないじゃん……」
痛みがマヒするまで、唇を噛みしめた。
本当に、ふざけてる。
これは3年前の再現だろうか。あまりにも似ていて、タイミングも良すぎた。
まるで「やり直せ」って、神様が言ってるみたいだ。
あたしの味方はどこにも、誰もいない。理解してくれる人も、自分以外誰も。
長い廊下から見える空は、墨でも混ぜたかのような暗い雲を厚くしている。雨が降るのかもしれない。
雨は嫌いだ。あの日も降っていたから。
手の中で、醜いシワがまたひとつ増えていた。