君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている




「あら? 歩、今日は随分早いのね?」

「うん……ちょっとね」



家の玄関で靴を脱いでいると、リビングからひょっこりお母さんの顔が覗いてきた。

下手に追及される前にさっさと階段をのぼり、自分の部屋に駆け込んだ。


カーテンを引いていないのに薄暗い部屋は、まるで海の底みたいに静かで冷たい。

ブルーのカーテンにしたことを後悔した。余計に寒々しく感じる。

ドサリと荷物を床に落とし、呟く。


「……なーにやってんだ、あたし」


結局放課後の部活もサボってしまった。

スマホの電源は学校を出る時にオフにしたままだ。優ちゃん、怒ってるかな。深月は……たぶん呆れてるな。


こんな気持ちで剣を手にしたところで、何が出来るだろう。

なんて、かっこいい言い方してもこんなのただの逃げだ。あたしが得意なやつ。

全然成長してないんだな。ほんと、笑えるくらい。


ふらりと机の前に立つ。自分の机ながら、ひどく汚い。

筆記用具とかプリントとか漫画とか、なぜか靴下まで積まれて、本来の使い方をするスペースがない。

実際ここで勉強することなんて、テストの前日くらいしかないから問題ないんだけど。

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