君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている
緊張のせいか足が思ったように動いてくれなかったように思う。
いつもの、緊張を身体から追い出してくれるあの手がないから。代わりに気合を入れ直してくれる、あの強くて優しい手が、ここにはないから。
それでもここまで来た。次は決勝。
あの手がなくても、あたしは大丈夫。勝てる。絶対に。
そう思うのに、震えは止まらない。このままじゃコートに入る前に無様に転んじゃいそうなくらいだ。
どうしたら堂々と、胸を張ってあの白線までたどり着くことが出来るだろう。
試合が始まる前から負けるなんてダメだ。相手にイケるって思わせちゃ、ダメなんだ。
相手はこれまで3度戦ったことがある相手だった。県では中学にあがったころから有名な選手で、これまであたしは負け越している。
でも、勝てない選手じゃない。あの上下白の剣道着の試合運びは、散々深月と研究した。得意技も、弱点も頭に入ってる。
足さばきが良くて、しなやかに動く選手だ。優ちゃんのスタイルに近い印象がある。つまり、強い。
あの選手に、これから挑むんだ。勝とうとしてるんだ、あたしは。
約10年の剣道人生で、こんなに勝ちたいと願ったことはない。