君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている
「優ちゃん……」
気付けばすがるように、面の下で呟いていた。
ここにはいない、大切な幼なじみの名前を呼んでいた。
白の旗が目の前で上がる。試合が決した。
3位決定戦が終わる。次はあたしが、あそこに立つ番だ。
涙がこぼれそうになった瞬間、
「歩!」
名前を呼ばれた。聞き慣れた声だったはずなのに、呼んだのがあいつだとは思えなかった。
だってあいつは、あたしの名前をまともに呼んだことがなかったから。
でもその声を探して顔を向けた先、人ごみをかき分けて走ってきたのは、間違いなくあいつだった。
「深月……っ!」
胴を着けたままの深月が目の前に立った。
汗だくで、肩で息をしている深月は別会場で準決勝だったはず。
「勝ったの!?」
「勝った! お前は……いまからか」
厳しい顔つきで、あたしを見下ろしてくる。
その目があたしの小刻みに震え続けている手を見ているのを感じて、俯いた。
あんなにあたしに付き合ってくれたのに。
いつもは文句たらたらなくせに、嫌味のひとつも言わないでいてくれたのに。
こんな土壇場で臆病風に吹かれて……申し訳ない気持ちでいっぱいになる。