君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている
深月が何かに気付いたような顔をして、力強くうなずいた。
「いくぞ」という短い宣言のあとに、パァンと激しい音が響いた。本当に力いっぱいの、遠慮のない張り手を背中に叩きこまれ、前につんのめる。
あまりの勢いに咽たけど、一緒に全身を支配していた緊張も飛び出していったみたいに、震えがきれいに消え去っていた。
優ちゃんの手よりもずっと無骨で、荒々しくて、そして……温かい手だと思った。
熱いくらいの気合がみなぎってくる。深月があたしを信じて与えてくれた勇気。
勝つ。絶対に。
優ちゃんのために、深月のために。
「行ってこい!」
力強い手に背を押され、一歩踏み出す。
もう何も怖くない。
あたしがコートへと進み始めると同時に、深月はまた元来た道を駆けていく。
深月もこれから決勝なんだ。それなのに、わざわざあたしの所まで心配して来てくれた。
大切なことを教えてくれて、大事なものを分け与えてくれた。
応えたい。その想いに。
コートに入って2歩。上下白の剣道着の相手と向かい合い、礼をする。
それから同時に3歩進み、白線の前で蹲踞。
抜いた竹刀の先を互いに向け、呼吸を整えた。