君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている
「さっさと立てよ。ケツ濡れるぞ、バカ」
「ケツ言うな。……あー、やっぱムリ。足痛くて立てない」
「おいおい、勘弁しろよ。予選始まるって言っただろーが、このバカ」
バカが語尾みたいになってる。
でも、なんでだろう。深月にバカって言われるのは、なんとなく嫌じゃない。
どこかくすぐったさを覚えるくらいで、不思議なことに。
深月の手を借りて、よろよろと立ち上がる。
立つのはなんとかなるけど、歩いたり自転車をこぐのは厳しそうだ。
「あーあ。どうやって帰ろう」
「それ、お前の自転車? 俺がこぐから、後ろ乗れ」
「あ、なるほど。深月あったまいいい!」
「お前と比べりゃ、誰だって頭良くなるわ。……ったく、足、気合で治せよ」
ムチャなことを言って、深月はボコボコになったお母さんの自転車がちゃんと動くか確認し始める。
雨と、それからたぶん汗でぐっしり濡れたシャツから、背中の肌が透けて見えている。
なんで深月は、ここにいるんだろう。
いや、それはさっきあたしが電話で言ったからだろうけど、そうじゃなくて。
どうしてわざわざ、こんなに濡れて、汗かいて、息を切らせてまで来てくれたんだろう。