君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている

「……なんだよ。俺の顔になんかついてるか?」


じっと見ていたら、気づかれた。

深月は居心地悪そうに眉を寄せて、自分の顔を撫でる。


すっかり精悍な、男らしい男になった……なんて。あたしがそんな風に思ってるなんて知ったら、きっと大笑いするだろう。



「深月」

「なに。なんかやっぱついてんの?」

「そうじゃなくて。遅くなったけど……これ」



剣道着の胸元に手を入れて、隠していたそれをそっと差し出した。


深月の猫みたいな目が見開かれる。

前に渡してくれって頼まれた、深月の手紙だ。あちこち折れて跡がついちゃってるけど、どこも破れてないし、汚れてもいない。


深月がラブレターを書くなんて、想像すると笑えてくるけれど、ほんとに笑えはしなかった。

これもきっと、悲しいというよりも、ただ切ないと感じているんだろう。


深月は黙って、渡されなかった手紙を受け取った。



「返すね。深月が自分で渡すのがいいんだと思う」



ラブレターを届ける仕事は、もうやめにする。そう決めた。

想いはちゃんと、自分で届けるべきだって思うから。誰よりそれを、わかっているから。


間違えず、真っすぐに、好きな人に伝えるべきなんだ。

< 328 / 333 >

この作品をシェア

pagetop