君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている

中からは練習中の部員の声が響いてくる。

しまった、もう始まってたんだ。


ちらりと深月を伺うと、珍しく顔を強張らせて優ちゃんを見ている。

心なしか若干青褪めた顔をしてて、あたしもきっといま、似たような顔になってるんだろうなと思った。


「随分楽しそうだな、ふたりとも。一体この時間までどこで何してたんだ?」


笑顔なはずなのに、目が全然笑ってないのが恐ろしい。

いつもの菩薩じゃない、鬼主将の時の優ちゃんの顔だった。


つまりあたしたち……死んだ。


「大会が近いっていうのに随分余裕があるみたいだ。今日はふたりともラストまで隅で黙想」

「えっ!? 黙想だけ!?」

「主将! せめて素振りだけでも! いくらでも振りますから!」


黙想は稽古の最初と最後に毎回やっている、精神集中をはかる方法だ。

正座をして、両手を前で組み、目を閉じて雑念を払い、無心を目指す。


これを2時間の稽古の間続けるということは……つまり、ものすごくきつい。肉体的にも、精神的にも。



< 72 / 333 >

この作品をシェア

pagetop