君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている
幸せそうな千世の姿を、あたしは呆然と見ていた。
何がなんだか、理解が追い付かない。いったい何が起きてるの?
だって昨日は越智くん、そんな素振りは一切なかったじゃん。
誰とも付き合う気はない、サッカーに集中したいからって。告白も迷惑だって。
それなのに、昨日の今日でどうしてこんな結末になるわけ?
「歩! ありがとう、本当に! 歩がいなかったら、越智くんにこんな風に言ってもらえなかった。絶対ムリだった。わたしのお願い聞いてくれて、本当に本当にありがとう!」
いつかの加奈子みたいに、あたしに抱き着いて涙しながら何度もお礼を言ってくる千世に、ひたすら困惑するしかなかった。
言っとかなきゃなと思って呟いた「よかったね」は、勢いなく滑るようにして落ちていく。
千世の肩越しに、教室の端にいた深月と目が合った。
深月もあたしみたいに戸惑った顔をして、どうなってんだと目で訴えてくる。
そんな目で見られても、あたしにだってわからない。
でもまあ、悪いことが起きたわけじゃないし……。
良かったんだよね? と、自分にそう言い聞かせた。