たとえこの身が滅びようとも


家に帰ると
もうノブ君は仕事から戻っていて
白いシャツの上からエプロンを着け、サラダを作っていた。

「おかえり」

「ただいま」

「政府から荷物が届いているよ」

「うん。たぶん薬」

私はコートを脱いで
テーブルの上の小さな包みを開くと
思った通り
白い錠剤の入った小さな瓶だった。

ノブ君はキッチンからチラリと私を見て
何も言わず手を動かしてレタスをちぎる。
そのゴツゴツした長い指先に裂かれる葉は遠くで見ていても新鮮で。裂ける音は悲鳴のように聞こえた。

「丘の上の人にもらったの?」

私が聞くと彼はうなずく。

「今日担当した家の奥さんから『赤いリンゴとレタスとどっちがいい?』って聞かれて、赤いリンゴも魅力的だけど、こんなにパリパリしたレタスは久し振りだったからチカに食べさせたくて」

赤いリンゴも捨てがたかったのだろう。
迷いのある正直な声を聞きながら
私はカバンから青いリンゴを二つ取り出す。
するとノブ君は照れたように笑い「レタスでよかった」と、私に言ってくれた。

私より20センチ高い身長。
手足が長くて白いシャツが似合う
猫背ぎみの細い身体
黒縁のメガネの奥の一重の目。

穏やかな人だった。
会話がなくても
一生一緒に入れそうな人

私は政府が組み合わせを決める一回目の顔合わせで、ノブ君に決めた。五回しか紹介システムのチャンスがないのなら、一回目で決めても変わりはない。

ノブ君も驚く事に一回目で
ためらいもなく私にすぐ決めてくれた。

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