たとえこの身が滅びようとも

反対隣の人が軽く唸り出す。
後頭部をイスに押し付け
何度も左右に振りながら
顔を赤くして額に汗をかいていた。

低く唸る声に身が縮こまる。

それはバスケットを自慢していた彼女も同じで、私の顔を不安そうに見つめて、ぽっちゃりとした白い手を私に伸ばして私の手を握る。

「本当は……怖いの」
泣きそうな顔で彼女は言い
私は彼女の手を握り返した。

「でも……産まないと終わらない」

彼女に言ってるのか
自分に言ってるのかわからない

彼女は私の言葉にうなずき
あきらめたように自分の場所に座って大人しくなる。

だから私も座って目を閉じる
藁の香りがこんなにも懐かしい
大きな牧草地に座ってる気分
ざわつく声も風の音に聞こえる。

それからお腹が急に痛くなり
汗が出て苦しくて唸りたくなる。
ふと横を見ると
彼女も同じだった。

私はノブ君のカバンから持ってきた
小さな玉を服の上からギュッと握る。

隣の彼女は「痛いー」「我慢できない」「ママ助けて」と、苦しそうに叫んでる。

その様子を見ながら
私は卵に『まだよ』『まだダメ』と、涙を浮かべながら言い聞かせた。

そう
まだダメ
一緒に産み落とさなければいけない。

同じタイミングで産み落とす

万が一のチャンスで

失敗は死に繋がる。


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