たとえこの身が滅びようとも
目の端で煙幕を捕え
右往左往する政府職員の意識が全てそっちに行った瞬間、私は隣の彼女を盗み見る。
彼女は疲れ切った顔で天井を見上げていた。
今は動く元気もないだろう。
煙幕騒ぎにも興味はなさそうだ。
私はジリジリと身体を丸めて足元に手を出し、彼女の卵と自分の卵をすり替えた。
一秒が一時間に感じるように
手を震わせ
心臓を高鳴らせ
力を振り絞って動き
卵は交換される。
誰かにバレたら仕方ない
素直にこの場で命を捨てようと思っていたのに
誰にも何も言われず
少しの時間の後
私の足元にある彼女が産んだ卵は回収され
隣の彼女はやっと元気になり
自分の足元から卵を大切につかみ
ピンク色のバスケットに丁寧にのせて、柔らかなガーゼでそれを包んだ。
「絶対女の子」
勝利の笑顔を浮かべ
私に言う。
「また、お店にいらして下さいね」
「ええ。必ず」
そう
必ずいらして下さい。
卵の子と一緒に
私の子と一緒に……。