たとえこの身が滅びようとも

「今日はもう出るの?」

「うん。まっすぐ地下に行く」

細い身体に防弾チョッキを身に着け
ノブ君は内ポケットのナイフと銃を確認する。

ノブ君の仕事は人捜しだ。

何が不満なのかわからないけれど

丘の上の人が自由な生活を捨て
怖い地下に逃げて潜るパターンがある。
ノブ君はその家族から依頼され
地下に潜って探して連れ戻す仕事だ。

地下への扉は10時と17時に5分間だけ開く。

だからノブ君は10時に地下に入り
17時に地上に出る。

地下と地上を繋ぐ時間が短すぎるので
昔は戻れない事もよくあったらしいけど
今はそんなミスはないそうだ。

ノブ君は仕事ができる。

周りの仕事仲間は地下の人達を遠慮なく殺し、ターゲットを見つけて力で連れ戻そうとするけれど、地下に住む住人の返り討ちに合い、バラバラにされて地上に吐き出される。でも、ノブ君はどこの場所でも誰とでも優しく話を聞き出し、人の胸元に入り込んでじわじわとターゲットに近寄り確保する。

地上に帰りたい人間と帰りたくない人間は、顔を見たらすぐわかるらしい。

帰りたい人間は連れて帰るけど
帰りたくない人間は形見の品をひとつもらい、死んだ事にして品物と報告書を家族に渡していた。

意気込んで地下に潜っても

蝶は蛾になれない。

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