たとえこの身が滅びようとも
「ちこくのカマが開く時間」
私がふざけた声を出すと
ノブ君は微笑んで私の髪をそっと撫でた。
「違うよ。地獄の釜が開く時間」
わざと間違って
ノブ君に訂正させるのが好きだ。
地下の扉が開き
地上と繋がる5分間をそう呼ぶらしい。
地獄も窯もわからない
ノブ君も私も意味はわからないけれど
音とイントネーションが気に入って
私達は合言葉のようにふざけて言い合っていた。
ノブ君の左手首にはトカゲが住んでいる。
黄色い名も知らぬ花に寄り添い
トカゲは背中を丸めて目を閉じている。
地下に住む女の子が彫ってくれたタトゥー。
安らかな顔をしているトカゲはノブ君に似合ってた。
「気をつけてね」
「チカもね」
そんな会話をしながら
私は部屋を先に出た。