明け方の眠り姫
 そのカフェに入ると、まず鮮やかな色彩に目を奪われる。続けてほのかに甘い花々の香りが鼻腔を擽る。

 花の合間を通り抜け、隣のカフェコーナーまで歩を進めると、今度は淹れたての珈琲の香りが私に届く。

「あ、夏希さん。いらっしゃいませ」

 最後にこのお店の紅一点、綾ちゃんの眩しい笑顔を認めて、ようやく私の一日が動き出した。


「おはよう、綾ちゃん。モーニングもらえる?」

「かしこまりました。先に珈琲をお持ちしますね」


 『花屋カフェflower parc』。カフェに花屋が併設されているこのカフェで、季節の花に癒されながら出勤前の時間を過ごすのが、もう長いこと私の日課になっている。

 この時間は、ほぼ私専用になっている窓際のテーブルを陣取り、ビジネス誌を開いてモーニングが届くのを待った。

 ページをめくる手を止め、私は窓の外へと視線を向けた。ビルの窓に冬の澄んだ空が映っている。窓から差し込む日差しが暖かく、眠気を誘う。私は、漏れた欠伸を噛み殺し、手にしていた雑誌をぼんやりと眺めた。

 さっきから少しも集中できない。記事に目を通そうとするたびに、ちらちらと残像が脳裏を過る。


 明け方に見た夢が、まだ尾を引いていた。

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