今の私は一週間前のあなた




…よかった
来てくれて。


修也のお母さんは不服そうに
私の両親は不思議そうに
私の部屋の扉の前に立っている


「…どうぞ」

私は微笑みながら
扉を開けた


中に入った3人はキョロキョロと辺りを見回す

「…何も、変なところはないじゃない」


修也のお母さんが呟いた時
私はスピーカーから音楽を流した


私の行動に目を囚われながら曲を聴いて思い出す

「…これ、修也の好きなバンドの曲…」



バサバサと机の上に置いてある本を地面に落とせば
私のお母さんが拾い上げてページをめくった



「…修也くんと、藍乃の…アルバム」



何冊にもあるそれを訝しげに見つめて目を話すことはない。

私のお父さんといえば本棚にある本を手にし、呟いた


「…昔、修也くんが好きだと言っていた映画の小説だ…」



部屋は朝、
空いた時間で
整理整頓したおかげでゴミひとつない。



ただあるのは

修也への私の想い。




驚いて私を見つめる3人に私は笑った

「これが、私の1ヶ月間の世界。」





歪な愛情

第三者から見ればただのヤバイ人


それでもよかった。

私にとって修也を忘れないために必要だったんだから



「…朝起きたら。

修也の好きだった本を読んで

ネットで買った保存食を口にし

修也の好きだった音楽聴いて

修也の好きだったゲームをして。



…1分たりとも修也を忘れたことなんてない。



ましてや、心から笑えたことなんて一度もない…よ」



泣かないつもりだったのに


過去のバカな私が蘇って来て


バカだとわかっていても
それでも私のするべきことだと信じていた私が蘇ってきて。




涙が落ちた




「…修也にもらったプレゼントを眺めても
私は身に付けることなんてできない

…私なんかにそんな権利ないんだから」




ポツリと滴る涙がカーペットに次々と染みを作ってゆく。

それでもとめどなく
溢れて
溢れて
止まることを知らない




「毎日ボロボロのパーカーを着て
朝から晩まで修也のことを考えて
あの日の事を何度も何度も夢に見て
自分の死を何度望んだかわからない

…24時間ずっと修也を追いかけて追いかけて…

それでも、追いつくことはできないの…っ」



私の1ヶ月間を知った両親は息を呑み
唇を噛み締めた
…私には2人が何を考えているかなんてわからない
それでも、いい

何の言葉も交わさずに分かり合える人なんていないのだから



服の袖で涙を拭って言葉を探す
私にはまだ伝えきれていない


「…修也のお母さん…。」

そっと近づいて私は修也のお母さんの手に触れた

修也のお母さんは私の瞳をまっすぐに見つめ返す


私はどうにかもう一度笑った
強い口調で言い放つ
絶対に揺るがない思いを



「…学校なんていけるはずない
笑えるはずない
両親と話したことも今日で1ヶ月ぶり。
…ねぇ、私。前に進みたいの…!」


グッと力を込めて握れば
修也のお母さんはびくりと肩を震わせた


「あなただけが悲しいと…!
あなただけが修也を想っていると…
そんな事を思わないで…っ」



涙がこみ上げて
それでも叫びは止まらなかった



「私は、修也が好きです。

目の前で私が殺したと同様の彼のことが好きです

どんなに会いたくても会えない彼が好きです

この想いは、絶対にあなたに負けるはずがない…!!」




どれだけ
あなたが修也を大切にしていたとしても


どれだけ
あなたと共にいた時間が長かったとしても


どれだけ
あなたが悲しかったとしても






私には絶対敵わない







私ほど修也が好きな人は絶対に他にいない自信がある

私ほど修也を想える人は絶対に他にいないという自信がある




「…だから…っ だからこそ…
私は前に進みたい……!
修也に囚われることが、修也のことだけを考えることだけが
幸せだとは限らない…っ
修也の願う未来だとは限らないっ…!

…私は、ある人にそう教えてもらったから…」



乃々

私は前に進めるかな

私はあと少ししかない時間を
大切な人と共に

過ごせるかな



私は……
修也のお母さんと、もう一度



笑い合えることができるかな




…私は真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに
修也のお母さんの瞳を見つめた

絶対に逸らしてやるものかと


絶対に負けてやらないと。






「…知って、いたわ」

途端に、柔くなった声が紡ぎ出される
修也のお母さんは私の瞳を揺れ動く瞳で見つめ返した。
声は震えていてとてもか弱く見えた



その奥には迷いが漂っている



修也のお母さんの
頬を伝う涙は何を思ってか…。



それでも


その涙はとても綺麗であった


とても、美しくあった



< 102 / 130 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop