今の私は一週間前のあなた


「鏡時計だね」


私と同じ声が耳元から聞こえて
勢いよく振り返ると乃々が立って笑っていた

「あ…うん」

手にとっていた時計を元の場所に返して
笑う

「鏡時計って…?」

乃々は私が聞くことをわかっていたかのように説明してくれる

「美容院とかでよく使われるんだけど…

ほら、美容院とかだと鏡があるでしょ?
普通の時計だったら見難いからもともと反対に回るように作られてるんだよ」


…なるほど
壊れているわけでは無く鏡を通したら正常に見えるようになる、のか

「へぇ、そうなんだ」

笑ってもう一度鏡時計に目を移した時

「…これ、懐中時計…?」

1つだけ鏡時計の中に懐中時計をみつけた
金色で繊細な模様が施されていて

「…綺麗…」

時間はギリシャ数字で書かれていて
正直、読めない…

けれど、私の目を惹きつけてやまない

これも鏡時計かと思ったけど
針の回る向きが私の知っている回り方だった

「なんでだろ…置き間違えかな」

くるりと反転させると値段のシールが貼られている

「2500円か…安い、けど。今から遊園地行くなら…」

やめておこう

元の場所に起き直そうとした時
懐中時計がパシッと奪われる

「え…乃々?」

乃々は私の制止も聞かずにレジへ向かってしまう

「い、いいよ!?」

「…でも、気に入ってたみたいだったから」

乃々は袋に包んで貰うと私の手の上に乗せた

「…はい、クリスマスプレゼント」

もうすぐ、死ぬのに
私は

「…ありがとう」

それでも嬉しくて笑みが溢れる

死ぬまでだけど…
大切にしよう

と、私は決意した
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