今の私は一週間前のあなた


さっと準備を整えて
乃々と2人で懐かしい道を歩く

小学校の時はいつも修也と登校していたっけ




「あいのちゃん!はやくー」

「まってよ〜」

今で思い出せる声が頭に響く




取り戻せない過去が
懐かしくて
悲しくて
私はそっと微笑んだ




今日の空は曇り空
雨が降りそうなわけじゃないけど
雲が太陽を遮っている


まるで今の私を示すようで…。

私の心も
これからの未来も
曇っていて先が見えないから



沈黙する空気に耐えきれなくなって



「…小学校になにをしに行くの…?」



さっきからなにも言わない乃々に声をかけた


「…内緒」
乃々はそれ以上なにも答えてくれなくて、
気がつけば私が6年間ランドセルを背負って通った小学校についていた


小学校には無断で入れないから職員室に断りを入れる

五年生の時に担任をしていただいていた
先生が私を迎えてくれた

小学校の時は若いくて綺麗な先生だったのに
今日の先生はなんだかお腹が大きくて…、
不思議に思っていると「子どもがいるの」
と言って先生は自分のお腹をさすって笑った

乃々は準備万端でマスクとメガネをかけていて同じ顔だとはわからないと思う状態だ。

私は先生に「友達です」と紹介をして中に入れてもらった



「…大きくなったわね。藍乃さん」

先生は目の端を細めて柔らかく笑った
まるで愛する娘を見る優しい母のような笑顔

今、
こんな笑顔を私は母に向けられているだろうか…?




「…あはは…そう、ですかね」
なんだかムズムズして私は頭をぽりぽりとかいて俯いた

「そぉよ?昔はこーんなに小さかったのに」


先生は手を腰の高さ程にかざして大きさを示す


「…!私そんな小さくなかったですよ!」

「いやいや、ほんとよ?」
私が首を振って否定すると
先生はふふふ、と優しそうな笑い方をする
私はそれに目をそらしてしまう


「…そう、でしたっけ」

まるで愛を教えてくれるような
微笑みは私には程遠いものだから。



今、私はひとりだから



「…修也くんは…」

修也の名前が先生の口から出た途端
先生の声のトーンが一気に下がった

「…残念だったわね…」


修也
本当は修也とここに来たかった
暗い考えを堪えて笑う

「…そうですね」

先生は誰に聞いたのか知っていたのだろう。
もしかしたらあの葬式に来ていたのかもしれない
私は周りを見る隙なんかなかったから
誰がいたとかおぼえていない

ふと乃々はなにも言葉を発していないことに気がついた


「…乃々?」

名前を呼ぶと乃々はこちらを向いて微笑んだ。
微笑んだと言っても口元はマスクで見えないから目尻が少し下がったのがわかる。そんな感じ。

…?
声を出さないの?

私と同じ声だとバレるからか
その他の意図かはわからないが
とにかく乃々は先生とも私とも口を交わす気は無いらしい



誰もいない静かな学校に
3人の足音と話し声だけが響いている



それでも周りを見渡せば子供達が走り回っている気配が教室の中やたくさんの掲示物から伝わってくる
みんなの笑顔と笑い声が聞こえて来る気がするのだ



「…でも、懐かしいわぁ
勝手に壁に落書きをして怒った事もあったのにね」


先生がふと懐かしげに呟いた言葉に
軽く頭が痛くなった
…なんだろう。体調が悪いのかな
けれどそんな感じはしない


らく、がき?
先生のその言葉が頭に引っかかっているのだ



私、それをしってる
知ってる気がする


まるで
テストで暗記したところを思い出すように必死に
懐かしい過去を思い出すように手探りに私の頭の中の引き出しを開けまくった
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