今の私は一週間前のあなた



泣いているときに急に叫んだからか
愛妃ちゃんの息が切れている



「…愛妃ちゃんは…可愛くて、優しくて。
なのにどうして私なの?」



どうして私を友達だと思ってくれるの?

どうして、そんな風に泣いてくれるの?


純粋に首を傾げていると
愛妃ちゃんはそっと哀しそうに言葉を紡いだ


「…藍乃ちゃん…なんでそんなことを言うの?」


疑問を疑問で返されて答えられずにいると
悲鳴をあげるように愛妃ちゃんが叫んだ





「私の友達を。大事な親友を馬鹿にしたら、たとえ本人だろうと許さないっ…!」





まっすぐな瞳に見据えられ
声が出なくなった

その言葉には確かに意思があって
適当に思いついて考えた言葉とは思えない




私は逆にわからなくなった



どうして自分なんかが、そんな風に言ってもらえるのか…。


私の中で渦巻く疑問を汲み取るかのように愛妃ちゃんが言葉を放つ

そっと呟くように
それでも強く。



「……藍乃ちゃんは、そこら辺にいるどんな子よりも優しいんだよ…?

…私が『男好き』って噂されてるの知ってて隣にいてくれる
怖いとき励ましてくれる
笑いかけてくれる
勉強教えてくれる
…友達でいてくれる

悪いけど、正直びっくりするほど凄いって言えるような所はないのかもしれない。

だけど。

…それでも藍乃ちゃんは“噂”じゃなくて“私自身”を見てくれた」



まるで悲しい過去を思い出すような言葉。


“噂”じゃなくて“愛妃ちゃん自身”を…?


「…私、そんなに言われるほどの事はしてない…よ」


ポツリと言い返せば
愛妃ちゃんはまた強く私の服を握った



「藍乃ちゃんだけなの…!
修也と付き合った理由を話しても笑いかけてくれたのは…っ!


自分勝手な事をして、簡単に修也を傷つけた。

協力とか言って自分の恋が叶えばポイ。

自分がしたことが最低だってわかってても、変えられなかった

変わろうと努力しても一度馬鹿みたいなことした私に…誰も関わろうとはしなかった」




愛妃ちゃんの心の底に積もる苦しみが
今、初めて顔を出した

今までは巧みに隠されていた悩みが暴露されて…。
怒って赤かった顔が
恥ずかしい事を言ったとでも言うように更に真っ赤に染まる顔の愛妃ちゃんを私は見つめた



確かに

愛妃ちゃんは今言った言葉の通りの事をしたのかもしれない



でも…
女の子が好きな人に必死になるのはわかるし
悪いことだとは思わない


それだけその人に向けられた愛が強くて
素晴らしいという事。

「…愛妃ちゃんは、凄く…すごく
進が好きだっただけでしょう?


前に、修也と付き合うことができたとき『愛妃が影で俺を応援してくれてた』って修也は言ってたよ。
愛妃ちゃんは自分の恋が叶ったら協力しない、なんて事はしなかったんだよね?


…それに。
修也への想いに気づいた中学の私は
愛妃ちゃんが修也と別れたことを嬉しく感じていたから…

だから…
私は
愛妃ちゃんの言うような優しい人なんかじゃないんだよ…?」



中学の時の気持ちを正直に言えば
愛妃ちゃんは私を見上げてにこりと微笑んだ



「…知ってるよ。


そんなだから、

…そんな藍乃ちゃんだから…


私は藍乃ちゃんが好きなんだよ…。

女の子は演技が上手いから嘘ついたって隠し通せる
なのに、藍乃ちゃんは真っ直ぐに私にぶつかってきてくれる



“噂”に左右されないで私を見てくれる



…私が、どれだけその真っ直ぐな優しさに救われたか

わからない。

私は…そんな藍乃ちゃんだから…
大好きなんだよ…」


微笑むその頬には今まで見たことのないような綺麗な涙が伝っている
ピンク色の柔らかそうな唇は軽く弧を描き震えていた




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