この熱は消えぬまま
 思うというのは、その記憶が全くないからだ。

 横で人の気配がした。

「起こしちゃった?」

 真由がいた。

 夢じゃなかったんだと思うと同時にあることが心配になった。

 思わず布団を捲って確かめる。

 二人とも服を着ていた。

「何を心配しているの?何にもされていないよ」

 ホッとしたような残念のような。

「ちょっと、お水飲んでくるね」

 真由が布団から抜け出していった。

 彼女がいたところに手を当ててみた。

 そこにはちゃんと熱が残っていた。

 真由が戻ってきて、そのまま窓辺へと歩いていった。

 カーテン越しの窓からはかすかに月の光が差し込んでいた。

 その光が彼女を照らし出していた。

「!」

 驚きに声が上げられなかった。

 彼女の姿が一瞬、別人に見えた。


 ここにいるのは真由ではない

 そのことに気がついてしまった。
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