リンカーンはアメリカンコーヒーを三杯飲む。
自転車を漕いで、稲荷神社に着く。
赤い鳥居の横に、石でできた狐が私をじっと見ている。
パーカーのフードを目深に被った。いくらパソコンの内蔵カメラで見られて顔が割れているとはいえ、晒すことは不用心だと直感的に思った。
不穏な動きをとれば、殺される可能性だってある。私が今から会うのは、人を殺したことがある人間だ。普通の人間じゃない。
パーカーのポケットに両手を突っ込む。右手でバタフライナイフをいつでも抜けるようにしておく。自分の身は自分で守るしかない。
人の気配はない。あっても、人の気配がどういうものかイマイチわかっていない。感覚を研ぎ澄ませる。心臓が脈打つ音が聞こえる。どんどんどんどん高鳴っていく。