リンカーンはアメリカンコーヒーを三杯飲む。
「まさか、三田紗栄子が、あの紗栄子だって言うの?」
「言ってはない。俺はヒントを与えただけ。」
金子は牛乳を飲み終え、その瓶を窓の外に投げ捨てた。
遠くで瓶の割れた音が響く。
「バッカヤロー! おい、金子! 死ぬとこだったぞ!」
遠くで紗栄子の声が響いた。
「悪い悪い。」と大きな声で返した金子は、それからボソッと「チッ。死ねばよかったのに。」と言った。
仲がいいのか悪いのか、わからない。
でも、きっと紗栄子はあの凶悪犯、三田紗栄子で、金子も訳ありのヤバい奴なんだと思う。
そんな二人が、歪んでいるとはいえ、限定的とはいえ、人の役に立つ仕事をしている。
それは、必死に生きるため。人間に与えられた命の灯を燃やすため。
そこには、善も悪も法もない。人間の義務を全うしているだけだ。
自殺して、人間の義務を放棄した人間よりも、よっぽど人間らしい。