桃色吐息
「でもね、ミキちゃん達に優しくしてもらった時は、本当に嬉しかったんだよ。
裏があったのかもしれないけど、そのお陰で私はどんなに救われてきたか。
ビトのファンの子でも、こうやってわかりあえるんだなって思っていたんだもん…」


だから私は、どうしてもあの子達の事を恨んだりできないなぁ…

私が勝手に、エイジ君の事好きになって、ビトを傷つけてしまったのは本当の事だもの。




「桃ちゃんはほんとに、姉さんにそういうところそっくりだね。
どんなに周りが悪くたって、自分を責めるんでしょう?」


そしてべべさんは、お母さんが昔ファンに殺されかけた話をしてくれた。


「姉さんがあのストーカー女に刺されたあと、何て言ったと思う?
消えない印ができたみたいで嬉しいって言ったんだよ。
自分を殺そうとした相手を、そこまで許すことができるって信じられる?」


私もその話は昔から聞いていた。

お母さんに脇腹の傷の事を聞くと、お父さんとの思い出の傷だよって笑いながら教えてくれたもの…



「ああーーー、もうダメだ、あたし感動した!」


何故か私の代わりに、カオリさんが隣で号泣していた。

そんな姿を見ていると、なんだかほっとして笑ってしまう。



「なんなのよ、どこまで良い女なのよ…」

百花ちゃんが意味深なことを呟くと、アキラくんが彼女の頭を撫でてあげている。

そのしぐさが、エイジ君みたいだなって思う…

やっぱり、彼女の事を大切に思ってるんだなって改めて二人を見るとそう思う。



「桃ちゃん、もう俺たちのライヴは来ないで。俺ちゃんと頑張るから、桃ちゃんが安心して見にこれるようになるまで…」



「ほんとだよ、もっと頑張んなさいよ…」

べべさんがそう突っ込むので「ママはホント煩いよ!」って笑いながらビトは口答えしていた。



「ビトは今まで頑張ってきたじゃない、大丈夫だよ。悪いのはヤラカシてる奴等なんだから、私がなんとかするから。」

百花ちゃんが必死でそういってくれるのに、ビトは彼女に対してはずっとそっけなくて…


「お前はなにもしてくれなくて良いから、もうどっか行っててくれよ…」


そんな風に突き放してしまう。

この二人の関係は何なんだろうなぁ?





「おお、いい男が来た!」


べべさんがいきなりそう言うので楽屋の入り口の方を見ると、エイジ君とレンが汗まみれのぐちゃぐちゃな格好で、だけどなんだかスッキリとした楽しげな雰囲気でやって来る。


「桃どうした?」

私のところに真っ先に来てくれて、私の頭をいつものように撫でると、にっこりと笑う。

それだけで私は、なんだか安心する。
ビトがそこにいるのに、なんだか悪いなって思いつつも…


「ちょっと熱中症かな?」

なんだか言いづらくてさっきの事を無意識に隠そうとしてしまった。


あれ?

そんな楽しげな雰囲気と相反して、彼の右手から、血が滴り落ちているのを見つけた…





「エイジ君、ちょっと来て。」

カオリさんがちょっと離れたところにエイジくんをつれていくと、ビトとアキラくんと百花ちゃんも加わって、さっきの事を説明しているみたいだった。



「ねえ、なんかあったの?今日はここに来ないって決めてたじゃん。」


べべさんの隣に座って、勝手にお茶を飲みながら、蓮が呑気に聞いてきた。


「ちょっとね、またビトのファンに絡まれちゃて避難してただけ、たいしたことなかったから大丈夫だよ。」


それより、エイジ君の怪我が気になるなぁ…


「なるほどねぇ… なんだかあっちは複雑な関係みたいだね…」

べべさんが楽しげに、あっちがこっちが好きでこっちがあっちでなんていいながら、ビトたちの事を指差して楽しんでるみたい。


「蓮君の彼女、めっちゃ良い子だね。あのカオリちゃんって子でしょ?」

べべさんは誰も教えてないのに、すぐ気付いてみたいだ。さすがだ…



「カオリさん、またなんかヤラカシたの?」

レンが疑い深い目で私達に聞いてくる。


「さっきお母さんの昔話してたら、めっちゃ泣いてた。」

「ああもしかして、お父さんのファンに刺された話?」

そうそうって答えると、そういうの彼女弱いんだよねっていう。



「もうさ、すぐ人に同情しちゃって熱くなっちゃうんだよ。この前もさ…」


何か言いかけて、レンは不自然に黙ってしまった。


「何この前どうしたの?」

べべさんに突っ込まれて、ああまた何かいっちゃいけないこと言いそうになってんだなってすぐわかる。



「この前さ、エイジのお父さんの鉄さんの働いてる飲み屋に行ったんだけどさ、そこでもやらかしてて…」


ああ、あのことかって私はすぐわかってしまった。


「あれでしょ、リンダさんと仲良くなっちゃったんでしょ、カオリさん。
知ってるから大丈夫。」



べべさんはにやにやして、何か察してくれたみたいだ。

「その子、エイジ君に関係があるんだ。」


そう言ったきり、それ以上は聞かないでいてくれた。


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