桃色吐息
エイジ君が話し終わったようで私のところに戻ってきてくれる。

「モモ、なんかゴメンな、やっぱ一緒にいてやればよかったな。」

私の前に膝間付いて、両手を取ってぎゅっと握り締めてくれた。
何だか王子様みたいでかっこいいなって思う。


「エイジ君怪我してるじゃない、ちゃんと手当てしなきゃ・・・」

私はさっきから、その傷が気になってしょうがない。


「こんな傷イタかねーよ、お前の方が辛かったろ・・・」


そんな風に言ってくれるから、さっきからビトの前でずっと我慢してたのに、いきなり涙があふててきて、エイジ君の右腕に涙が落ちた。



「もうずっとそばにいるからな・・・」


そんなことは無理だって私はビトのときによくわかっているから、余計悲しくなる。

彼の右手から少しづつ流れている血の上に、私の涙がにじんでいく・・・


「そうじゃない、そうじゃないんだよ、私が弱いだけ。もう一人で何でも出来なきゃいけないのに、
エイジ君をそんな、縛りたくないから・・・」



私の涙を彼の指が優しくぬぐってくれると、初めてキスをしたときのことを思い出す。



ああそうだ、エイジ君とのはじめてのチュウはあの時だなって思い出す。



おでこがくっつきそうなくらいエイジ君の顔が近いなって思った。


「ああ、青春だねぇ~ 良いなぁ~」


あ、べべさんと蓮がいたことをすっかり忘れていて、一瞬で私の涙がひいて笑いそうになった。



「別に続けてもよかったのに。」

蓮がニヤニヤしながらそんなことを言から「うるせー」ってエイジ君は真っ赤になって照れている。



「なんか思い出しちゃうなぁ、ジュンと別れたときの事。モモちゃんとおんなじことを考えてたなぁ。」


そうだ、べべさんもジュンさんと辛い恋をしてきたんだよな・・・
ずっと遠距離結婚で、年に数回しか会えなくて、ビトも一人で育てて・・・



「ああ、あの初めてNYで仕事始めたってときの事?」


「私もさ、ジュンを縛りたくないって思って一回身を引いたことがあったんだよね。
まあ結局、ビトが出来てたから、別れられなくなっちゃったけど。」

蓮はその話、初めて聞いたのかな?私は昔その話聞いたよなって、ぼんやりと思い出していた。



「なんか意外っすね、ちゃんとしてそうなのに。」

エイジ君は、不思議そうにそう聞いていた。


「恋は溺れていくものだからねぇ…」




私は溺れるほどビトに恋していたかな・・・

エイジ君は、いつも落ち着いていて、そんなことはないよな・・・



「とりあえず、医務室いっておいで。さっきからモモちゃんおろおろしてるし。」



べべさんにそうせかされて、私達は2人きりで楽屋を出て、医務室まで向かうことにした。

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