桃色吐息
手当てが終わって、エイジ君は包帯を巻いてもらったりして、私達は2人でそのまま会場をまわることにした。

またビトのファンの人たちにばったり会ったら怖かったけど、エイジ君が居れば大丈夫な気がした。


久々にあったビトは、何だか寂しそうだったなと思い出す。

別れた後も、まだ私の存在で悲しい思いをしてるんじゃないかと思うと、心が痛むけど。


エイジ君の手をぎゅっと握り締めて、それでもこの手を離したくないとやっぱり思うんだ。




「なあ、海見に行こう。」


「ライヴはいいの?見たいのないの。」

そう聞いたんだけど、はじめからそんなにどうしても見たいってのもなかったみたいで、最後にみんなでべべさんのライヴが見れればいいやなんていってくれた。



「あっちのビーチステージまで行けば、もう海岸だよ。」

子供の頃から何回も来ているこの会場は、大体何がどこにあるかわかってる。

毎年海の方でレンとビトと三人で遊んでたんだよなって懐かしく思い出す。



ああそうだ、ここは私達の、唯一といっていい楽しい思い出の詰まった場所なんだ。



「何時ごろから来てたの、このイベント。」

そう改めて言われると、もう覚えてないほど毎年いるな。


ビトが二歳の頃に、べべさんとジュンさんは結婚していることをやっと公表して、その公表した場所がここだったときいた事がある。

私が初めてビトに会った頃だな。

「たぶん、三歳ぐらいの頃からだから、もう12年前くらいかな?」



あのころは、ずっと夏が続けばいいと思っていた。

夏休みが終わると、ビトはNYに帰ってしまうから。

夏の間だけ、ビトはべべさんと一緒に日本に来て、フェスめぐりをして、私のうちにも遊びに来てくれた。


今年はとうとう、自分達も出演する側になったんだな。そう思うと感慨深い。


「あの頃は、楽しかったなあ・・・」


ぼんやりと夕日を眺めながら、そんなことをつぶやいていると、エイジ君がにっこりと笑う。


「悲しいことばっかじゃなくてよかったな・・・」



エイジ君とこんなに近くにいるのに、ここにいるとビトのことばかり思い出しちゃって、この夕日を今までずっと何年も何年も一緒に見てたんだって、思い出したら、何だかとても切なくなった。



「夕暮れは俺苦手だったけど、モモがいるとがんばれるな・・・」


それってどういう意味だろうなあ・・・



ビーチステージでは、レゲエバンドがずっと演奏をしていて、その音楽がこの夕日に合いまって、なんともいえない美しさで、私はぎゅっとエイジ君の手を握り締める。



「ねえ、エイジ君、私ずっとビトのこと忘れなくてもいいかなあ・・・
ゴメンネ・・・ちゃんと別れたのに、会うとやっぱり思い出しちゃうよ。」


私の頭を、いつものように撫でてくれながら「当たり前だろう」って彼はつぶやく。


「俺たちは同じだって言っただろう。もうそういうのはさ、曖昧なまんまでいいんじゃね?」










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