桃色吐息
”今バイト中なんだけど、暇すぎて飽きてきた。
お前はなにしてんの?”


土曜日の午後、おじいちゃんのところで生け花のお稽古をしていたときに、エイジ君からメールが来た。

何時も前触れもなくいきなりくるから、いつも戸惑ってばかりだ。



一輪の大振りなダリアを真ん中に生けて、さてどうしようかとしばし眺めながら、メールの返事を考えていた。


ダリアは一輪だけでも綺麗だよね、たった一輪でも花があって何も飾る必要なんて無い様な気もしてくる。





ダリアを引き立たせるべく、できるだけシンプルに生けておじいちゃんに手直しをしてもらうと、なかなかいい出来だと褒めてもらえて嬉しかった。



”今おじいちゃんのところで、お花のお稽古してるの。
今夜はそのまま泊まってくんだ~♪

エイジくんも、バイト頑張ってね☆”


メールの返事を打つと、私はお稽古のときにいつも着ている着物を着替えた。

今日はこのまま泊まっていこうと、おばあちゃんと二人で夕飯を作ってから、おじいちゃんも一緒に夕飯を食べていた。



「桃、どうかしたの?」

おばあちゃんにいきなりそういわれて、なにがって答えたら、知らないうちにまた大きな溜息をついていたらしい。


「悩み事でもあるの?」

おばあちゃんは、いつも穏やかにそうやってなんでも話を聞いてくれる。
昔はビトのこともよく相談したんだよな、おじいちゃんには内緒に。



おじいちゃんは、うちのお父さんやビトの仕事に偏見を持っている。
昔、私の両親が付き合いだした頃、お母さんがお父さんのファンに襲われたことがあったから。

だから、おじいちゃんには絶対ビトのファンに意地悪されていたことなんて、口が裂けてもいえなかった。
絶対別れろって強制的に言われるに決まっているから。



そのてんおばあちゃんは、昔結構自由奔放に過ごしてきた人だったので、色々経験してみなさいっていってくれる。




「ビト君とは、仲良くやってるの?」

食事が終わって、おばあちゃんと二人きりでリビングでお茶を飲んでいた。

「うん、仲は良いけどね・・・」


それ以上は何をいっていいのかわからなくなる。


そんなことを考えていたらまたメールが来たので、エイジ君からの返事かと思って急いで携帯を見ると、案の定エイジ君からの簡単な返事と一緒に、ビトからのメールもきていた。



”今から会えない?”



珍しくそれだけの、シンプルなメール。



私はこっそりおばあちゃんに事情を話して、彼に会いに行くことにした。
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