桃色吐息
22
新井薬師の駅は初めて来た。

レンと2人で電車をいくつか乗り継いで辿り着くと、改札のところにエイジ君が一人で待っていた。

何時だって待ち合わせよりちょっと早いんだよな、こんなときもそうだ。



しばらくして時間調度ぐらいに駅とはまったく別方向からカオリさんが歩いてきて、四人で合流する。
カオリさんはこの近所に住んでるらしい。


「みんな早すぎじゃん、まだ時間じゃないでしょう。」

カオリさんがいつもの三倍ましぐらいに元気に言うから、いつもより気を使ってるんだろうなって思う。


「桃。」

エイジ君は手のひらを出すと、いつもは自然と繋いでいるくせに、今日はしっかり意識して私の手を握り締めてくれる。



「あー何食べる?あそこ結構何でもおいしいんだよ、鉄さんが作ってるから。」

「カレーとか美味しかったよね!」

レンが元気よくそういうと、それは賄だったでしょて、メニューにないものまで食べてたらしくて二人で笑っている。

「鉄さん料理うまいんだ、私も教えてもらおうかな?」

この前写真は見せてもらったけれども、エイジ君のお父さんってどういう人なのかな?
そう思い出すと、少し凹んだ気持ちも楽しくなる気がしてくる。



お店は駅からすぐで、年季の入った感じのその居酒屋は、私一人では絶対に入れないようなところだった。
みんなについて最後にお店に入ると、カウンターのところに見覚えのある女性が居て、ああ彼女がリンダさんだなってすぐわかった。

いらっしゃいませって元気な男性の声が響いている。


奥の方の半個室っぽくなった広めのテーブル席に私達は通され、
エイジ君は私を先に奥に座らせてから、私の隣に座った。

こっちの席は初めてだねなんていいながら、レンが私の向かい側に座る。


「桃ちゃん何飲む?」

そう聞かれたけど、ソフトドリンクはオレンジジュースとサイダーとか三種類しかなくて、私はウーロン茶でいいですよって答えた。

食べ物のメニューを見ると、写真はなかったけど、手書きの達筆な文字で書かれている説明書きを読むだけで、何だか美味しそうだなってわかる。
しかもどれも安くて目移りしちゃう・・・

カフェでケーキ食べるぐらいの値段で、何種類頼めるだろう?



店長らしい男性が注文を取りに来て目をやると、ほんとにエイジ君がそのまんま大人になったみたいな人で、ああこの人がそうかと一発でわかった。


「エイジ何年ぶりだ、ここに来るの? 子供の頃は毎日来てたんだぞ。」

そんな風にエイジ君と自然に話していて、エイジ君もそれにちゃんと答えていてほっとした。

ああそうだ挨拶しなきゃって思っているうちにすぐに、注文を聞いたらさっさとカウンターに戻ってしまってタイミングを逃してしまう。



< 112 / 128 >

この作品をシェア

pagetop