桃色吐息
お店を出る頃には、すっかり門限を越えていてどうしようかと思っていた。

カオリさんがすっかり出来上がってしまったので、レンはカオリさんのアパートまで送っていくという。

「あ桃、僕このまま泊まってくから、母さんに言っといて。」

カオリさんもすっかり酔っ払って、「桃ちゃんまたね~」なんて言って蓮に寄りかかっている。

わかったって返事したのはいいけど、こんな遅くなってまたお父さんに怒られたらやだなあ・・・

蓮達はさっさと、最寄り駅の反対側の方向へずんずんいってしまうので、私はエイジ君と2人っきりで新井薬師の駅前でどうしようか悩んでいた。

「送ってくよ。」

何時もの変らない感じで、エイジ君が駅の改札に入ろうとするから、私は思わず彼のTシャツのすそをつまんで引き止めていた。


なんていうか、蓮ばっかずるい・・・

彼女が一人暮らしだからって、週末にかこつけて何時も泊まって帰ってくるんだもん。
私だって、エイジ君と2人で居たいのに。


「どうした?」

私の顔を覗き込んで、エイジ君がそんな風に言ってくれるけど、なんて言っていいかわからなくてそのまま俯いていた。


「門限過ぎちゃったけど、ちゃんといっしょに謝ってやるよ、かずなりさんにさ。」

もうすっかりお父さんのことは平気になってるっぽいけど、そういうことじゃないんだよ。


「違うの・・・今日は帰りたくないなって・・・」

思い切ってそれだけ言うと、急に恥ずかしくなって顔が凄くほてってくるのがわかった、ふとエイジ君の顔を見ると、彼も真っ赤になって照れている。


「お前そんなこと言うなよ・・・」


しばらくエイジ君は、何かじっと考えていたようで、小さく「よし」って何か心に決めてから私の手を取って、蓮たちがいってしまった方向に歩き出した。


「じゃあ家くるか、今日は母さん居るし。」

そういえば、エイジ君のとこに行くのは、あれ以来だ。
また何時でもこいよって言われたのに、全然いってなかったな。

観覧車でした約束を守るために、親が留守のときは呼べないって思ったんだろう。
きっと2人っきりになったら、約束を守る自信がない。

私はどっちでもいいんだけど、エイジ君は何か心に決めているみたいだから、あの約束はどうでもいいとはいいずらかった。



「早くりんさんに連絡とっておけよ。」


そういわれて私は慌ててお母さんに電話して、私と蓮は今日は帰らないって伝えた。

「何だ、はじめからそうだろうと思ってたから、ちゃんとお父さんに適当に言ってあるし、大丈夫よ。」

お母さんは何でもわかっちゃうんだなあ・・・そういわれて安心したけど、お母さんは心配じゃないのかな?
私達のこと、信じてくれてるのかな?



「ちょっと遠いけど、歩いていくか?」

ここから高円寺までは、30分もかからない。電車で乗り継ぐほうが遠回りだって教えてくれた。




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