桃色吐息
それから私は、ミチルさんが敷いてくれた布団の中でごろごろしながら、適当に本を読んでいた。

”500円玉貯金殺人事件”

ミチルさんの書いた小説。
何だかタイトルから、うちのお父さんを想像してしまって気になったから。


節約家のドケチな探偵が、容疑者に間違えられて、ドケチが講じて犯人を探し出すってちょっとコミカルなミステリー小説。

はじめの一章節を読み終わった頃、何だかうとうとしてしまって、私はそのまま寝落ちしてしまった。







「モモ・・・」

優しい声に呼ばれた気がしたけれども、どうしても起きる事が出来ない。
大きな手が私の頬に触れているのがわかったけれども、何だか夢現のままだった。

きっとエイジ君だなあ・・・なんて思いながら、そのまま手を手繰り寄せて、彼の胸の中に顔をうづめていた。


「エイジ君のにおいがする・・・」

温かくて、嬉しくて、幸せで、私はそのまま深い眠りについてしまって、起きた頃にはすっかり夜が明けていた。



やっと目が覚めて顔を上げると、すぐそこにはエイジ君の顔があって、ああ私はあのまま胸の中で眠っていたんだって気付く。


「やっと起きた?」

眠そうな顔で、エイジ君は私の髪を優しくなでてくれる。

ずっと朝まで、添い寝してくれてたんだなあって思ったら、急に恥ずかしくなった。


「ゴメン、先に寝ちゃってたね。」

「いいよ、疲れてただろ、色々。」

「今日はバイト?」

「いや」

そっか、じゃあ今日はお弁当はいらないななんて思い出す。


ずっと2人で、シングルの布団の上でごろごろしていたから、エイジ君は体が半分布団からはみ出している。



目の前のエイジ君の顔を見つめると、キスがしたいなって思ってしまうのをぐっと我慢。
この唇に触れたいと思ったとたん、私は思わず指でそれをなぞっしまった。

「ゴメン桃、ちょっと先に起きて・・・」

エイジ君は、私の手を優しく離して、布団にうつぶせてしまった。


「どうしたの?」



そう聞いても、何だか照れているみたいではっきり答えてくれなくて、

「色々ちょっとやばいから、すぐ行くから。あっちでテレビでも見てて。」


私は仕方なく、そのまま起き上がって、リビングの方に行っていわれるがままにテレビをつけてみていた。


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